冬の終わり♦︎アラスカ❤︎Sunday morning

瑠璃色をしたオーロラ状の寒気は青いカーテンを開けるようにして去っていった。冬の終わりが近づいている。僕にはそんな気配がする。絶頂の瞬間を知って悲しくなるのは、あとは降(くだ)るだけしかないと悟るからだ。透明で美しい季節が通り過ぎようとしている。

 

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僕が2006年の冬の終わり頃にバイト先で出会い、そしてすれ違って行った女の事を思い出した。雪の様に色白で冷たい眼差しを持ち、白い吐息のように柔らかで儚い優しさを纏った、悲しいくらい美しい女だった。周囲で噂されるほどの美しい君が、なぜ、何の取り柄もない僕と糾(あざな)い、解(ほど)けていったのか。今でも不思議に思う。ただあの一瞬、(時間の魔法といえばいいのだろうか)。まるでパズルのように君の失われた部分を僕だけが埋め合わせることが出来た。そして誰も触れることが出来なかった君の悲しみに触れた。それはアラスカの永久凍土を思い起こさせた。僕だけがそれを融解できると心から信じていた。寄り添い糾い、互いに輪郭を失った。永久凍土の氷の中から君の本当の輪郭を取り出せたつもりでいた。僕は君の悲しみと同化し僕自身を凍らせた。君と同じ体温でいた。

 

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あの頃の僕は春の沸き立つ生命の息吹や行き交う人や物の喧騒に理由のない不安を覚えた。春が来ると何となく君といられなくなるような気がしてならなかった。絶頂を知ると、あとは降ることしか出来ない。春先には僕の就職が決まった。そして君は僕が知らないうちにシフトから消えていなくなってしまった。

 

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昨夜から降った雨は今朝には降り止んだ。アパートや道路の水たまりに朝の光が反射して僕の瞳に投げかける。The Velvet Underground の「Sunday morning」が聞きたくなった。

 

冬の日の朝にとても似合う曲だ。君とよく聞いたことを思い出した。透明で美しい季節がすれ違っていく。

 

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